【大腸癌医療:No.16】直腸温存を目指した臨床試験 ENSEMBLE試験 その2
2023.01.16
肛門温存・直腸温存(臓器温存)を目指した臨床試験
今回は実行中の臨床試験についてご紹介します。
当センターでは、進行直腸癌(ステージII・III)に対してTNT(total neoadjuvant therapy)で、肛門温存・直腸温存(臓器温存)を目指した臨床第3相試験(ENSEMBLE試験)を実施しています。
近年、局所進行直腸癌(ステージII/III)に対して、再発(遠隔転移と局所再発)抑制を目的に標準治療の一つとして、手術前に薬物療法および放射線療法を行うTNTが行われており、ヨーロッパのESMOガイドラインや米国のNCCNガイドラインでも推奨された治療です。一方、我が国の大腸癌治療ガイドラインでは、TNTや術前化学放射線治療についての言及はなく、欧米と比較し我が国の直腸癌治療は後塵を拝しています。
TNTが注目されている理由としては、遠隔再発抑制効果に加え、局所制御も良好であり、TNTが奏効したcCR(clinical Complete Response)例、nCR(near CR)例については非手術管理(NOM: Non-Operative Management)により手術を回避し、直腸や肛門を温存しながら根治を目指すことが期待でるようになっています。アメリカのメモリアル・スローンケタリン キャンサーセンターを中心に実施されたOPRA試験では、TNT後のcCR例では約80%、nCR例では約50%の患者さんが、3年間の直腸・肛門温存(臓器温存)が可能(総じて直腸癌患者の2人に1人で臓器温存が可能)であり、TNTにより直腸癌患者の予後とQoLの改善が期待できるとされています(引用文献1)。我が国でTNTの安全性と有効性が検証された第II相試験、ENSEMBLE-1試験で、安全性および忍容性は確認されたが、まだまだ我が国において、臓器温存を行うNOMの臨床導入は遅れており、NOMを含めた直腸癌の治療体制の構築が課題となっています。
これらの課題を解決するために、SCRUM-Japan研究グループでは、局所進行直腸癌に対するTNTとして、短期放射線療法と全身薬物療法であるCAPOX(カペシタビン+オキサリプラチン)に対して、短期放射線療法とより強力な全身薬物療法であるCAPOXIRI(CAPOX+イリノテカン)の優越性を検証する第III相試験、ENSEMBLE試験が進行中であり、本試験はグローバルと肩を並べる臨床試験となっています。
ただ、これまで報告された臨床試験においても、TNTが全ての患者さまに奏効するわけでなく、中にはiCR(incomplete CR)となる患者さまが存在しているのも事実です。我々は、診断時(治療前)の生検検体を用いて、DNAやRNAなどのマルチオミックス解析によるプロファイリングとCT、MRI、大腸内視鏡の画像データを統合したAI解析によってTNTの効果を予測できるバイオマーカーの確率を目指しています。そして、NOMによる臓器温存が可能な症例を適切に選別すできるような医療を目指しています。
TNTは、本邦のガイドラインには記載されておらず、まだまだ治療開発中の治療法になっています。したがって、臨床試験として実施すべき新規治療であります。直腸癌に対してTNTをご希望の患者さまがおられましたら、ENSEMBLE試験の実施医療機関にお問合せください。
【大腸癌医療:No.15】直腸温存を目指した臨床試験 ENSEMBLE試験 その1
本臨床試験は、「日経メディカル」や「がんなび」でも紹介されています。また、jRCT (jRCTs031220342)やClinicaltrials.gov(NCT05646511)でも情報公開されています。ご確認ください。
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日本医科大学付属病院 |
北里大学病院 |
引用文献
1 Garcia-Aguilar J, Patil S, Gollub MJ et al. Organ Preservation in Patients With Rectal Adenocarcinoma Treated With Total Neoadjuvant Therapy. J Clin Oncol (2022).
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