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胃がんの主な治療方法

[最終更新日 : 2021年3月28日]

胃がんに対する治療方針

当院の胃がん治療は、胃がん治療ガイドラインに沿って行っています。

胃がんの治療法の種類と適応は、

  • 胃がんの深さが胃の壁のどこまで達しているか(粘膜まで:T1a、粘膜下層まで:T1b、筋層まで:T2、漿膜下層まで:T3、漿膜外まで:T4a、周囲臓器への浸潤:4b)
  • リンパ節の転移が疑われるかどうか(転移あり:N+、転移なし:N0)
  • ほかの臓器への転移(遠隔転移)があるかどうか(遠隔転移あり:M1、遠隔転移なし:M0)

で決定します。また、手術が行われた結果、顕微鏡検査(病理学的検査)による胃がんの真の深さ、リンパ節転移の個数などが決まります。

ステージは、深さ、転移のありなし、個数、遠隔転移の有無によって決まるものですが、再発のしやすさや治りやすさの指標となります。当院の治療方針を下に示します。

胃がんの治療ガイドライン
胃がんのステージ

当院における胃がん手術

低侵襲手術:完全鏡視下手術

当科では早期胃癌を中心に腹腔鏡補助下胃切除術(Laparoscopic-assisted gastrectomy)を行ってまいりました。この手術ではリンパ節郭清、胃切除を腹腔鏡下に行い、その後、上腹部に小切開(7-8cm)をおいて標本の摘出と消化管の再建(残胃十二指腸吻合など)を施行します。開腹手術と比べて創が小さいので術後の痛みが少なく、患者さんにやさしい手術といえますが、それでも上腹部の小切開創が痛い、という患者さんもおられました。
完全腹腔鏡下胃切除術

そこで、上腹部の小切開をおかない、完全腹腔鏡下胃切除術(Totally laparoscopic gastrectomy)を導入しております。再建においても、自動縫合器を使用することで、すべて腹腔鏡下に手術が可能で、切除した胃を摘出するために臍(へそ)の切開を延長して3~5㎝とする以外、すべての創は1㎝程度となります。患者さんの痛みの程度は非常に小さく、術後1週間程度での退院が可能となりました。

低侵襲手術:ロボット手術

二人同時にダビンチを操作
ダビンチの全景

腹腔鏡手術は開腹手術と比べると、上述のごとく創が小さくなることに加え、出血量が少なくなるなど様々な長所がありますが、短所もあります。腹腔鏡で使われる手術器具は長い棒状のものであり、言わば長い菜箸のような器具を用いて手術をするようなものであり、開腹して通常の器具を使う方が当然簡単で、難度の高い手術を行うにはより高度な技術が必要となってきます。

そこで登場したのが手術支援ロボットda(ダ) Vinci(ビンチ) surgical(サージカル) system(システム) (DVSS)です。当院ではda Vinci Xiが2020年2月より導入され、すでに胃がんの患者さんにも適応されています。より繊細な手術が可能であり、正常な組織を傷つける可能性が減り、術後の合併症が通常の腹腔鏡手術より少ないとする報告があります。

胃温存手術:噴門側胃切除術、極小残胃

胃の上の方にできた胃がんは、以前は胃全摘が行われることが多かったですが、当科では患者さんに合わせて、特に高齢の方については、できる限り胃を残す手術を行っています。胃がんが治っても、患者さんが食べられなくなり体力が落ちて動けなくなっては意味がないので、胃がんの進行度、患者さんの体力を十分に検討し、その患者さんにあった胃がん手術を提供します。胃の上側だけを切除する噴門側胃切除、逆に胃の上側を少しだけでも残す(極小残胃といいます)胃亜全摘術が行われます。いずれの手術も上述した完全腹腔鏡下胃切除術で施行可能です。

開腹手術

高度に進行した胃がんの治療においては、確実にがん病巣をとりきるために、胃がん病巣部は慎重に扱うことが重要です、同時に、進行胃がんが、周りの内臓に噛みついていないかを評価するには、手で触り慎重な判断が要求されます(よく、“神の手”と表現されるのはそのためです)。

当院は低侵襲手術だけではなく、進行した胃癌については開腹手術による確実な胃癌切除により根治性を重要視しています。さらには術前に抗がん剤治療を行ったり、術後も積極的に効果の高い抗がん剤治療を行ったりなど、「難治」といわれた胃がんについても「根治」を目指して、患者さんの気持ちに応える手術・治療を提供します。そのためには、患者さんの栄養状態が良好なことが必須であり、われわれは積極的な栄養療法を行っています(積極的栄養療法)。

その他:胃GIST(ジスト)に対する胃切除

リンパ節郭清の必要がない胃GIST(ジスト)については、噴門近くなどにできた場合、通常、噴門側胃切除などある程度の胃切除が行われてきました。しかし、当院では胃の機能をできる限り残す、という考えのもと、消化器内科の先生方と共同して、胃カメラと腹腔鏡を同時に行い、腫瘍だけをくりぬくように切除する手術(腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS:レックス)を行っています。

積極的栄養療法:ONS(経腸補助食品)、腸瘻、栄養指導、在宅栄養療法

当院では初診時から胃がん患者さんの栄養状況(体重減少がないか、食欲は落ちていないか、採血での詳細な評価)を注意深く評価し、栄養状態に問題があれば、すぐに栄養療法を行います。点滴加療を行うこともあれば、経腸補助食品ONS(オーエヌエス:Oral nutritional supplements)を処方することもあります。ONSは薬品であり処方箋を発行しますので、患者さんは薬局でONSをもらいます。200㏄程度のドリンクで、保険が利くので安価であり、十分なカロリーとバランスの取れた栄養摂取が可能です。術前だけではなく、術後早期からも(術後2日目から)飲んでいただき、体重減少の予防に努めます。

さらに、胃がんが原因で食事摂取が不十分であったり、体重減少が著しかったりする患者さんについては、その程度に応じて早めに入院いただき(初診日の入院も可能です)、カロリーの高い点滴(中心静脈栄養)や細いカテーテルを用いた経鼻経管栄養を行い、術前栄養状態の改善に努めます。

また、高齢のため、あるいは、いろいろな病気を持っていて、手術を受けるにあたり体力(耐術能)に心配がある方については、特に術後の栄養管理は合併症予防に重要となるため、手術の際に細い栄養チューブを小腸に入れて、胃瘻のように使用します(腸瘻:ちょうろう)。これにより術後食事量が少ない時期から十分な栄養を取ることが可能です。退院後も自宅で簡単に使うことができるため、寝ている間に腸瘻を使うなどして、栄養状態を良好に維持できるので、仕事復帰が早い段階から可能となります。進行胃がんのため、術後抗癌剤が必要な患者さんも、腸瘻を使うことで、副作用が少なくQOLを維持した抗がん剤治療が可能となります。医師だけではなく、看護師(自宅での腸瘻の使い方の指導も行います)・管理栄養士(術後どのような食事を取ればいいのか、食べられる量などの栄養指導を行います)とのチーム医療にて、患者さん一人一人に合わせた栄養療法を行っています。

胃切除を受けた患者さんにとって、食生活ほど重要なものはないとの考えから、当科医師が作成した『胃切除後患者の心得(こころえ)パンフレット』をお渡ししています。当院の消化器外科外来には、がん看護専門看護師が常駐していますので、食生活だけではなく、退院後の生活全般について心配がありましたら、ご遠慮なくお尋ねください

胃がんに対する化学療法(抗がん剤)

ステージIVの胃がんや再発した胃がんに対して行う化学療法は、最近の進歩により高い腫瘍縮小効果(奏効率)を実現できるようになってきています。しかしながら、化学療法による完全治癒は現時点では困難であり、延命ならびに生活の質の向上を当面の治療目標としています。多種多様な化学療法薬剤が開発されており、胃がん治療ガイドラインに記載されているものだけでも、10種類以上あります。

一方で、術後の補助化学療法は、治癒切除(手術でがんがとりきれた場合)の後の再発予防を目的として行われます。基本的にはティーエスワンという飲み薬を用いて、術後1年間行われます。術後のステージなどにより、ゼローダという薬剤や点滴の抗がん剤を組み合わせることもあります。