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食道がん治療の特色

[最終更新日 : 2021年3月29日]

低侵襲手術

従来、食道がんの手術では右胸の皮膚を肋骨に沿って切開し、みぞおちからおへそまでの上腹部を切開して行われてきました。当院では胸壁や腹壁の破壊を可能な限り小さくし、術後の疼痛や肺機能低下を軽減するために、胸腔鏡・腹腔鏡下食道切除術やロボット支援胸腔鏡・腹腔鏡下食道切除術を積極的に行っています。ただし、腫瘍の他臓器浸潤が疑われる方に対しては通常の開胸手術を行っています。

ロボット支援胸腔鏡下食道切除は、ダビンチという手術支援ロボットを用いて胸腔鏡手術を行うものです。内視鏡とロボットアームを小さな手術創から挿入し、術者は患者さんから離れたコンソールでモニターを見ながら操作します。胸腔鏡や腹腔鏡で使う鉗子は直線で曲がりません。いっぽう、ダビンチのロボットアームには関節と手ぶれ防止機能があり、人間の手や胸腔鏡の鉗子が入らないような狭い空間での安定した手術操作が可能です。また、コンソールのモニターは3D画像で10倍まで拡大して見ることができます。胸部食道は縦隔という狭いスペースに位置し、大動脈や気管等の重要臓器と隣接しており、ロボット支援胸腔鏡下手術はこれまでの胸腔鏡下手術よりも精緻な操作が可能と考えています。

ロボット手術の様子
ロボット手術の手元
食道がん手術
食道がん手術

強力な術前化学療法

Stage II, IIIの胸部食道がんに対する標準治療は術前化学療法後の手術です。術前化学療法としては5FUとシスプラチンの2剤併用療法が標準療法です。当院では術前化学療法として5FUとシスプラチンにドセタキセルを加えた3剤併用療法(DCF療法)を行っています。DCF療法は大阪大学や近畿大学、大阪国際がんセンター等と共同で開発し、腫瘍縮小効果や予後改善効果が従来より我々が行ってきた3剤併用療法(5FU、シスプラチン、ドキソルビシン)より高いということが示されました (Yamasaki M, Motoori M, et al. Ann Oncol, 2017)。

治療前の上部消化管内視鏡

治療前の上部消化管内視鏡

DCF療法後の上部消化管内視鏡食道がんは著明に縮小

DCF療法後の上部消化管内視鏡
食道がんは著明に縮小

治療前CT画像

治療前CT画像

DCF療法後のCT画像食道がんは著明に縮小

DCF療法後のCT画像
食道がんは著明に縮小

隣接臓器浸潤を伴う切除不能症例に対する集学的治療

食道は大動脈や気管、気管支と隣接しており、容易にこれらの臓器に浸潤します。大動脈や気管に浸潤を認める症例は切除不能ですが、強力な導入療法を行うことによって腫瘍を縮小させ、大動脈や気管浸潤が解除できれば切除可能となります。 5FUとシスプラチンに放射線を加えた化学放射線療法やDCF療法、あるいは両者を行うことにより隣接臓器浸潤を解除し手術を施行するという集学的治療を積極的に行っています。

化学放射線療法後の上部消化管内視鏡 食道がんは縮小

治療前の上部消化管内視鏡

治療前の上部消化管内視鏡

化学放射線療法後の上部消化管内視鏡
食道がんは縮小

治療前のCT画像 矢印の部位で気管浸潤を認める

治療前のCT画像
矢印の部位で気管浸潤を認める

化学放射線療法後のCT画像 食道がんは縮小し気管浸潤は解除

化学放射線療法後のCT画像
食道がんは縮小し気管浸潤は解除

腸内環境を整えることにより手術や化学療法の合併症を抑える

体に大きな侵襲が加わると腸内環境が乱れ、感染性合併症の発症につながります。我々は食道がんの手術や術前化学療法により腸内環境が乱れること、シンバイオティクス投与により腸内環境が保たれて術後合併症や化学療法の副作用が抑えられることを明らかにしてきました (Tanaka K, Motoori M, et al. Surgery, 2012, Motoori M, Yano M, et al. Clin Nutr, 2017)。

シンバイオティクスとはプロバイオティクス(腸内細菌叢のバランスを改善することにより宿主に有益な作用をもたらす有用菌)とプレバイオティクス(腸内有用菌の増殖や機能を活性化することにより宿主に有益な働きをする食物成分)を同時に投与することです。

当院では食道がん手術時や術前DCF療法時にシンバイオティクスを投与し、腸内環境を整え、合併症の軽減を図っています。

腸内環境