[最終更新日 : 2024年5月2日]
大腸がん
大腸がんは切除できれば、治癒が期待出来る比較的予後の良いがんです。
早期発見、早期治療がとても大切です。そのためにがん検診を定期的に受診されることをお勧めします。
大腸がんの治療はステージに応じて計画していきます。ここでは大腸がんのステージごとの治療方法についてわかりやすく解説します。
2022年1月に改訂された大腸がん治療ガイドライン2022年版に基づいた治療が基本になります。
検査方法
当センターでは、内視鏡治療、手術治療、化学療法、放射線治療、がんゲノム医療の総合的な医療を実践しております。
内視鏡治療
良性ポリープや、大腸がんでもステージ0またはステージIの浸潤が浅いものが対象になります。
大腸内視鏡を肛門から挿入して、大腸の内側からポリープを切除する治療法になります。
内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)
小さいポリープが対象になります。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
少し大きめのポリープが対象になります。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
ポリープが大きい場合、内視鏡用の電気メスを用いて病変周囲の粘膜を切開し、病変直下の粘膜下層を剥離して病変を切除する「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」が行われます。一般的に入院での治療になります。
手術
ステージI〜IVが対象になります。
大腸がんの手術は、がんの部分だけでなく腸管とリンパ節(転移することがある)が含まれる腸管膜を一緒に切除します。切除したあと、腸管は吻合(つなぎ合わせる)します。
リンパ節は血管に沿って存在します。リンパ節を切除するために腸管に向かう血管ごと切除します。
リンパ節転移率
深達度 | 結腸がん | 直腸がん |
---|---|---|
T1b(粘膜下層) | 8.6% | 10.3% |
T2(固有筋層) | 20.7% | 26.1% |
T3(漿膜下層) | 43.4% | 51.2% |
T4a(漿膜) | 62.6% | 66.1% |
T4b(漿膜外) | 55.4% | 61.9% |
(大腸癌治療ガイドライン2022年度版)
ロボット手術
当センターでは、ロボット手術が第一選択になっています。
ロボットの手術支援により、複雑で細やかな手術手技が可能となります。また3次元による正確な画像情報を取得できるため、より安全かつ精度が高く体への負担が少ない手術が可能です。2018年4月より直腸がんに対してロボット支援下直腸切除・切断術は保険診療として実施できるようになりました。2022年4月よりロボット手術は結腸がんに対しても実施できるようになりました。
2022年7月よりダビンチは2台体制になりました。
2022年8月より大腸がん手術は基本的ロボット手術で行うようになりました。
ロボット支援による直腸がん・結腸がん手術とは
ロボット支援による直腸がん手術は、通常の腹腔鏡手術をロボット支援下に行うものです。ロボットにより繊細で精密な手術が行えるため、根治性、肛門・排尿・生殖などの機能温存の向上が期待されています。
ロボット支援下手術は傷は小さく腹腔内に手が入っているイメージで手術することが可能です。
ロボット手術の特長
- より高精度で緻密な手術が可能
- 実際の手の動きが鉗子に反映される直感的な操作
- 多関節を持つ鉗子により人間の手以上の自由な動き
- 実際の手の動きを最大5倍の繊細な動作
- 10倍ズームで高解像度
- 3D画像で立体的な解剖理解
- 神経の一本一本や細かい血管を視認
- 温存すべき臓器を確実に温存
当センターでは、ロボット手術で安全かつ精緻で根治性の高い直腸がんと結腸がんの手術につとめております。
腹腔鏡手術
おなかに4〜5箇所の小さな切開を置き、カメラ(腹腔鏡)を使って行う手術です。二酸化炭素でおなかを膨らませて手術します。傷が小さく痛みが少ない低侵襲です。
腹腔鏡手術の長所
- 体にかかる負担が小さい
- おなかの創が小さいので創の痛みが少なく、早期より離床が可能
- カメラで大きく見ることができ、肉眼では見えないものが確認できる
- 早期退院が可能 など
腹腔鏡手術の短所
- 病気の部分を直接触れて確認できない
- 手術中におなかの中全体が確認できない
- 開腹手術より多少手術時間がかかる など
当センターでは腹腔鏡手術を第1選択としており95%の大腸がん患者さんに実践しております。
お一人お一人の病状や体力に合わせて行う手術こそ究極の個別化医療と考えます。
自律神経温存術
直腸周囲には排尿機能と性機能を支配する自律神経が存在します。神経を温存すると手術前と同じ程度の排尿機能、男性性機能(射精、勃起)を期待できます。進行したがんでは、病気を治すために排尿機能や性機能を犠牲にせざるを得ないこともあります。ロボット支援下手術などでは、神経を視認することが出来ます。可能な限り神経温存出来る手術をロボット支援下手術で行っています。
肛門温存術=永久人工肛門を作らない手術
がんの肛門側の境界が肛門から4cm以上、歯状線(肛門と直腸との境界)から2cm以上離れていれば、肛門を温存することが可能です。肛門温存術と自律神経温存術を併用し術後の機能障害をかなり減らすことが可能となりました。最近は、まだ臨床試験段階でありますが手術だけでなく術前治療(放射線、化学療法)を行い肛門温存、臓器温存(直腸温存)を行う治療も出て来ております。
ISR(括約筋間直腸切除術)
肛門には、自分の意思では動かせない内肛門括約筋と、動かせる外肛門括約筋があります。ISRでは内括約筋を切除して外括約筋は残します。残った外括約筋を意識的に締めることで、排便機能はある程度維持することができます。
この方法により、肛門から2~3センチしか離れていないがんでも、吻合部の傷が癒えるまで一時的な人工肛門は必要ですが、永久の人工肛門をつくることなく切除できるようになりました。
究極の肛門温存手術であるこの手術を、当センターではロボット支援下手術で実施しています。
側方リンパ節郭清
肛門に近い直腸がんでは、他の大腸とは違って、血液やリンパの流れが2方向あります。そのため、転移を起こす可能性のあるリンパ節の経路も、腸間膜の中の血管に沿った方向と、直腸から横方向に骨盤の方へ向かう血管や神経に沿った方向の二つの領域になります。
直腸から横方向に骨盤の方へ向かう血管や神経に沿ったリンパ節を郭清することを「側方リンパ節郭清」といいます。
当センターでは、ロボット支援下手術で側方リンパ節郭清を行なっております。
人工肛門造設術
肛門に近い直腸がんや肛門にできたがんでは、永久人工肛門を造設する腹会陰式直腸切断術が現在でも標準的な手術です。当科では、ロボット支援下手術で実施しております。
肛門括約筋の働きが低下している場合には、肛門温存術を無理に行っても手術の後に排便障害で苦しむ可能性が高いです。肛門を温存できる状況であってもあえて人工肛門造設術を選択することもあります。
当院では、専門看護師(WOCナース)が人工肛門を持つ患者さんの生活支援をきめ細く行っていますので、お気軽にご相談ください。
手術の合併症と後遺症
大腸がんの手術では、次のような合併症や後遺症が起こる場合があります。
主な合併症
縫合不全
縫い合わせた腸がうまくつながらず、腸管のつなぎ目から便が漏れ出ることをいいます。炎症が軽度であれば食事制限や点滴治療で改善することがありますが、発熱や腹痛など腹膜炎の症状がある場合は、再手術が必要なことがあります。
腸閉塞(イレウス)
手術の影響で腸がうまく働かず、便の通りが悪くなった状態のことをいいます。食事を控えたり、腸の動きをよくする薬を飲むなどの対応を行ったり、鼻からチューブを使って胃液や腸液を排出させることで多くの場合改善します。
創感染
手術したお腹の表面の創が化膿し、腫れや痛み、発熱などが起こります。縫い合わせた皮膚を開き、たまった膿を出すことで、徐々に治ります。
主な後遺症
LARS(低位前方切除後症候群)
【LARS(低位前方切除後症候群):シリーズ】をご覧ください。
排尿障害
直腸の周りには、泌尿器や生殖器の機能をつかさどる自律神経が集まっています。この自律神経がダメージを受けると、尿意が鈍くなったり、排尿しても膀胱に残っている尿量(残尿)が多くなることがあります。
排便障害
直腸がんの手術で直腸が切除されると、便をためておく部分が小さくなり、便の回数が増えたり、排便を我慢できなくなったりします。また、肛門括約筋をコントロールする自律神経が傷つくと、排便を我慢できなくなったり、便意がよくわからなくなることもあります。
性機能障害
生殖器の機能をつかさどる自律神経がダメージを受けると、性機能も障害されます。
特に男性で起こりやすく、射精障害や勃起障害が多くみられます。
化学療法
術後補助化学療法
術後補助化学療法は、手術後に残っている可能性がある目に見えないがん細胞を根絶し、再発を防ぐために行われます。主な対象は、ステージⅢ、または再発の危険性が高いと考えられる高リスクのステージⅡで、全身状態が良好な患者さんです。
「フッ化ピリミジン系」と呼ばれる抗がん剤を中心に、作用の異なる薬を組み合わせた治療法が用いられます。大腸がんの術後補助化学療法で用いる薬で脱毛を起こすことは少ないです。
治療は、術後8週間ごろまでに開始し、3〜6ヵ月間おこないます。
化学療法(抗がん剤治療)
切除が難しい進行・再発大腸がんに対する薬物療法では、がんの進行スピードを抑え、症状を緩和したり、よい状態を長く維持したりすることを目指しています。使われる薬剤は、「抗がん剤」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」などの種類があり、患者さんの全身状態や合併症の有無、がん細胞の性質(遺伝子変異など)を考慮して決められます。
初回治療では、複数の抗がん剤に1種類の分子標的薬を加えた治療法を行うのが一般的ですが、BRAF遺伝子検査で異常が認められた患者さんでは、使われる薬剤が異なることがあります。
最近は、薬物療法が大きく進化し、治療の反応性を予測するための検査法も登場したことで、個々の患者さんの状態に応じた治療が行えるようになってきました。
1次化学療法
大腸癌の1次治療は、遺伝子変異・腫瘍の局在などを考慮して選択しています。初回治療までに日帰り入院で、カテーテルを埋め込み(ポートといいます)を行います。
左側(直腸・S状結腸・下行結腸) | 右側(横行結腸・上行結腸・盲腸・虫垂) | |
RAS変異なし BRAF変異なし |
FOLFOX+セツキシマブ療法 FOLFOX+パニツムマブ療法 FOLFOXIRI+ベバシズマブ療法 |
FOLFOX+ベバシズマブ療法 CAPOX+ベバシズマブ療法 FOLFOXIRI+ベバシズマブ療法 |
RAS変異あり | FOLFOX+ベバシズマブ療法 CAPOX+ベバシズマブ療法 |
|
BRAF変異あり | FOLFOXIRI+ベバシズマブ療法 FOLFOX+ベバシズマブ療法 CAPOX+ベバシズマブ療法 |
2次化学療法
初回治療の無効な場合、以下薬剤が選択されます。通院での点滴治療です。
BRAF変異なし | FOLFIRI+ベバシズマブ療法 FOLFIRI+ラムシルマブ療法 FOLFIRI+アフリベルセプト療法 CAPIRI+ベバシズマブ療法 |
---|---|
RAF変異あり | セツキシマブ+ビニメチニブ+エンコラフェニブ |
3次化学療法以降
これまでの治療で使われていない薬剤から選択します。
RAS変異なし | パニツムマブ+イリノテカン セツキシマブ+イリノテカン トリフルリジン・ピペラシル+ベバシズマブ レゴラフェニブ |
---|---|
RAS/BRAF 変異あり |
トリフルリジン・ピペラシル+ベバシズマブ レゴラフェニブ |
HER2陽性大腸癌 ハーセプチン+パージェタ
大腸がんに用いる薬は17種類あります。
- フッ化ピリミジン系:(S-1、カペシタビン、5-FUなど)
- プラチナ系(オキサリプラチン)
- イリノテカン
- ベバシズマブ
- ラムシルマブ
- アフリベルセプト
- セツキシマブ
- パニツムマブ
- トリフルリジン・ピペラシル
- レゴラフェニブ
- ビニメチニブ
- エンコラフェニブ
- ペムブロリズマブ
- ニボルマブ
- イピリムマブ
- ハーセプチン
- パージェタ
殺細胞薬の治療
がん細胞のDNA合成に関わり細胞を死滅させる薬剤です。
- 「フッ化ピリミジン系」と呼ばれる抗がん剤が基本として用いられます。
投与法は、点滴によるものと、内服(飲み薬)よるものがあります。 - オキサリプラチン、イリノテカンなどの点滴薬があります。
- 大腸がんの化学療法では、フッ化ピリミジン系(S-1、カペシタビン、5-FUなど)やFTD/TPIの抗がん剤に、他の抗がん剤を2〜3種類組み合わせた併用治療が多く用いられます。
分子標的療法(分子標的薬)
分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わる特定のタンパク質に作用し、がん細胞が増えるのを抑える働きがあります。大腸がんでは3つの種類があります。
- 抗EGFR抗体薬
がんの増殖に関わるEGFRタンパク質の働きを抑える働きがあるお薬です。
対象は、RAS遺伝子に変異のない(野生型の)患者さんに限られます。 - 血管新生阻害薬
がん細胞に栄養を与える新しい血管の形成を抑える働きがあるお薬です。 - キナーゼ阻害薬
がん細胞の増殖に関わる複数のタンパク質の働きを抑える働きがあるお薬です。
BRAF遺伝子変異型大腸がんの療法(分子標的薬)
BRAF阻害薬エンコラフェニブ、MEK阻害薬ビニメチニブと、抗EGFR抗体セツキシマブの3剤併用療法と、エンコラフェニブとセツキシマブの2剤併用療法が承認されています。
がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)
私たちの体は、免疫機能が正常に働いている状態では、T細胞などの免疫細胞が、がん細胞を「自分でないもの」と判断し攻撃します。しかし、がん細胞が、免疫機能から逃れようと免疫細胞にブレーキをかけ、攻撃から逃れていることがわかっています。薬剤を用いて、がん細胞による免疫細胞へのブレーキを解除し、患者さん自身にもともとある免疫の力を使って、がん細胞への攻撃力を高める治療法を「がん免疫療法」といいます。
- 使われる薬剤
「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれるお薬が使われます。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫のブレーキ役の部分(免疫チェックポイント)に結合する働きがある抗体薬です。 - 大腸がんに対する治療対象
切除が難しい進行・再発大腸がんで化学療法を受けたことがある患者さんのうち、がん細胞に「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)」と呼ばれる特徴が認められた方が対象となります。
MSI-Hかどうかは、内視鏡や手術で採取したがん組織のDNAを用いた「MSI検査」や「MMR検査」によって確認します。
放射線療法
高エネルギーのX線などを使ってがん細胞を死滅させたり、増殖を抑える治療法です。薬物療法と併用されることもあります。
大腸がんに対する放射線療法は、手術後の局所再発を防いだり、がんを小さくして肛門を温存することを目的に行われます(補助放射線療法)。照射を行う時期は、手術前、手術中、手術後の3種類あります。また、転移がある場合は、転移巣への局所治療として使われることもあります。治療スケジュール治療は、治療の目的やがんの種類ごとに立てられた治療計画をもとに進められます。多くの場合、毎日少量ずつに分けて放射線を照射します。1回の照射にかかる時間は数分で、痛みはありません。放射線療法の副作用主な副作用は、治療中に起こる早期合併症と、治療後、しばらく経ってから起こる晩期合併症があります。症状は照射する部位によっても異なります。
早期合併症
- 皮膚炎(赤くなる、ひりひりする、色素沈着など)
- 全身の疲労感、だるさ、食欲不振、白血球減少など
晩期合併症(腹部や骨盤に照射したとき)
- 直腸炎による出血、頻便、膀胱炎など
がんゲノム
一人一人の患者さんに適切な治療薬を届ける個別化医療を実践していくために、がんゲノム医療に積極的に取り組んでいます。保険診療や臨床試験で行なっています。次の治療につながる可能性は3-10%と言われています。既に採取した組織標本や血液を用いてがん関連遺伝子の解析を行います。
セカンドオピニオン
セカンドオピニオンとは、診断や治療方針について、主治医以外の他の医療機関の医師に意見を求めることです。
以下のような患者さんやご家族は、セカンドオピニオンを受けらる事をおすすめします。
・大腸がんの病気についてより深く知りたい方
・大腸がんの他の治療法の選択を知りたい方
・大腸がんに関する海外の最新情報や、新薬・治験情報を知りたい方
パンフレット
術前から術後までについて紹介してます。
大腸手術を受ける患者さんとご家族のためにパンフレットも配布しております
大腸がんの原因、術式、ステージ、術後合併症、合併症予防、術後の生活、退院後の注意点、術後フォローアップなどについて詳細に記載しております。
ダウンロードできますので、こちらもぜひご覧ください。
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