[最終更新日 : 2023年2月18日]
腹腔鏡下鼡径ヘルニア修復術(TAPP法)では、お腹に3か所の孔を開けて、お腹の中に二酸化炭素のガスを入れて、カメラを挿入してお腹の映像をテレビモニターで見ながら、ほかの2か所の孔から棒状の器械をお腹に差し込んで手術を行います。
腹腔内から観察するため、ヘルニアの診断が容易であり、症状のない反対側のヘルニアも診断が可能です。腹腔鏡を用いてヘルニアの孔を確認して、腹膜の外側にポリプロピレン製の補強材、メッシュを固定します。腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術はこれからの鼠径ヘルニア手術の主流となると考えられ、当センターでも積極的に本手術を行っています。
<TAPPの長所>
- 術後早期の疼痛が軽減します。
- 創が小さく整容的です。
- 術後早期の社会復帰が可能です。
- 複雑なヘルニア(合併する他の鼠径ヘルニア、反対側のヘルニア)の診断が容易です。
- 両側ヘルニアでも同一創での手術が可能です。
<TAPPの短所>
- 全身麻酔で行う必要があります。
- 従来の方法と比較すると、やや手術時間が長くかかります。
<入院期間について>
当院では2泊3日入院を原則としています。手術前日に入院し、手術翌日に退院となります。退院後は入浴が可能です。在宅療養は退院後3~7日必要です。
<合併症について>
出血
遅発性の出血もありますので、術後1ヶ月程度は無理な運動は避けてください。最近は、抗凝固薬、いわゆる”血をサラサラにする薬”を飲んでいる人も多くおられますので、その方々では特に注意が必要です。
感染、化膿
何ヶ月かしてから発症するものもありますので、創部の発赤や浸出液を認めた場合は、外科外来を受診してください。軽いものは抗生剤等の内服や点滴で軽快することもありますが、処置や再手術が必要になる場合もあります。
創部の腫脹、硬結
術後の全ての方に観察されます。2週間から1カ月程度で軽快してきますが、完全に傷が平坦で柔らかくなるには半年~1年程要します。
違和感
特に医療用メッシュを用いた場合に感じられることがありますが、こちらも数カ月程度で軽快します。
再発
最近は医療用メッシュを使用することが多いので、再発率は低くなってきていますが、全ての手術患者さんの中で、約2-5%と推測されています。
反対側のヘルニア
腹壁の脆弱性に起因した病態ですので、対側にも同様の現象は起こり得ます。
漿液腫
ヘルニアの袋が大きい場合には、鼠径部や陰嚢に水が溜ることもありますが、1か月ほどで落ち着いてきます。大半が自然に吸収されてますが、場合により外来で針を刺して排液をする事があります。
術後疼痛(慢性疼痛も含む)
術後まったく痛まないということはありませんので、手術後には鎮痛剤を処方します。まれに、長期にわたる知覚異常や、神経痛様の痛みが残ることもありますが、これらも数カ月から半年ほどで和らいできます。もし半年~1年経過しても軽快しない場合は、診察を受けてください。慢性疼痛の原因として、手術操作自体や手術に使用したメッシュ素材による鼡径部の神経障害が考えられています。術前から痛みを伴うような方、年齢の若い方で特に女性、再発のヘルニア手術の場合、術後に感染や血腫などの合併症のあった方や両側のヘルニアを手術した方などに、術後慢性疼痛を起こしやすいといった傾向はあるようです。