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肝胆膵の悪性疾患(肝がん、胆道がん、膵臓がん)

[最終更新日 : 2021年3月29日]

本邦における肝胆膵領域がんの罹患数は肝臓がん (4万人)、胆嚢胆管がん (2万人)、膵臓がん (4万人)を合計しても年間10万人程度であり、胃がん (13万人)や大腸がん (16万人)などの消化管がんに比べやや希少な一方、手術の難易度が高く予後も厳しい難治癌が多くを占めることが知られています。

肝がん

原発性 (肝臓生まれの肝がん。95%は肝細胞がん、5%は肝内胆管がん)、転移性 (大腸がんなど他の臓器で生じたがんの転移)の二種類に大別されます。
肝細胞がんは5年相対生存率40%程度と肝胆膵領域癌のなかでは比較的高い生存率を期待できる反面、再発を繰り返しやすい (年間2割程度)という特徴があります。

診断

原発性、転移性を問わず、多くはエコーやCTで診断されますが、必要に応じてMRIや血管造影検査を追加します。また、画像だけで診断ができない場合には生検 (針で肝腫瘍を刺して採取した組織の顕微鏡検査)を行う場合もあります。

治療

<肝がん①:肝細胞がん>

肝細胞がんは肝機能、がんの個数・大きさ・場所などの情報をもとに、三大局所治療(手術、ラジオ波焼灼、カテーテル治療)、薬物治療のうち適切な方法を選択します。ラジオ波焼灼、薬物治療は主に消化器内科が、カテーテル治療は画像診断科が行うため、外科を含めた三科の綿密な相談が必要です。手術の良い適応とされるのは「肝臓外への転移がなく」「肝機能が良好で」「個数3個以下で」「手術後の肝臓のサイズが十分である」ケースとなります。

手術まで:肝細胞がんでは通常術前治療は行っていません。

手術 (診断からの待期期間4週間程度)(表1):病変の個数・大きさ・場所により、小さな肝切除から大きな肝切除までさまざまですが、通常切除するのみで再建する (つなぎなおす)必要はないため、比較的入院期間は短く2週間程度です。

術後:原則として術後補助療法 (再発予防のための治療)は行っていません。体調が落ち着いたら3か月毎の検査と通院で経過観察しますが、先述のとおり肝細胞がんは再発を繰り返しやすいという特徴があります。ただ、他のがんでは再発が「元の臓器を超えて広がったもの」と扱われ、通常抗がん剤治療以外の選択肢がほとんどないのに対し、肝細胞がんの場合は再発病変も「肝臓に限定して」生じることが多く、三大局所治療を選択できることがよくあります。

<肝がん②:肝内胆管がん>

肝内胆管がんについては「肝臓外への転移がなく」「肝機能が良好で」「個数1個で」「手術後の肝臓のサイズが十分である」ケースが手術の良い適応となります。

手術まで:通常術前治療は行っておりません。

手術 (診断からの待期期間4週間程度) (表1):肝臓の表面にあるものは肝切除 (大小さまざま)を行い、入院期間は2週間程度です。肝門部 (肝臓の中心。血管や胆管が出入りする部分)に近いものは、後述する肝門部領域胆管がんと同様に、肝切除+胆管切除を行い、入院期間は4週間以上となることが多くなります。

術後:全例に術後補助化学療法 (再発予防のための抗がん剤治療)を行うわけではなく、3か月毎の検査と通院で経過観察する場合もあります。しかし、がんの進行が高度であった場合には、患者さんの年齢や体力に応じて術後補助化学療法を行うこともあります。また、肝内胆管がんでは「リンパ節転」が予後に及ぼす悪影響は極めて強いことが知られています。このため、術後にリンパ節転移が判明した時には、手術で取りきれたと思える場合でもがんが残っていると考え、抗がん剤治療をお勧めしています。

<肝がん③:転移性肝がん>

転移性肝がんは「ほかの臓器のがん」が肝臓に転移してきたものを指します。したがって「手術する値打ちがあるのか」「手術前後に抗がん剤投与を行うのか」などについては「転移元の臓器のがん」の担当医師の判断となります。

手術 (紹介から4週間程度) (表1):大小さまざまな肝切除が行われます。入院期間は2週間程度です。

術後:体調が落ち着いたら「転移元の臓器のがん」の担当医師の通院となります。

膵がん

今でも5年相対生存率は10%未満とたちの悪いがんの代表格ですが、検査技術や抗がん剤の進歩、集学的治療(手術や抗がん剤などを組み合わせた治療)の研究の成果に伴い、長期生存できるケースも増えつつあります。

診断:内視鏡的逆行性膵胆管造影 (ERCP: Endoscopic Retrograde Cholangio-Pancreatography)や超音波内視鏡 (EUS: Endoscopic UltraSonography)などの精密検査で確定診断し、高画質のCTで「取れそうかどうか (切除可能性)」を判断します。また必要に応じてMRIやPET検査を行うこともあります。

手術まで:「他臓器への転移 (遠隔転移)」「残さなければならない血管への浸潤」が切除可能性を規定する二つのポイントで、当院では概ね(※)以下のように治療方針を分けています (※厳密には臓器機能不良や臨床試験への登録などの要因で当てはまらないケースもあります)

 

 

切除可能性 抗がん剤メニュー 手術時期
切除可能 ゲムシタビン
+S-1併用療法
2ヵ月前後で手術
切除可能境界 ゲムシタビン
+ナブパクリタキセル併用療法
4ヵ月前後で手術
切除不能 ゲムシタビン
+ナブパクリタキセル併用療法
またはフォルフィリノックス療法
半年以上して
切除不能でなくなれば手術

手術 (診断からの待期期間は抗がん剤治療期間次第) (表1):術式については原則として膵頭部のがんは膵頭十二指腸切除、膵体部・膵尾部のがんは膵体尾部切除を行います。膵全摘が必要となるケースはあまりありません。

術後:手術で取りきれたと思える場合でも、再発予防のために通常は半年間の抗がん剤の内服をお勧めしています (術後補助化学療法)。補助化学療法中の半年間は3週間に1度は通院していただきますが、それ以降は3ヵ月毎の通院頻度となります。

胆道がん

<胆道がん①:胆管がん>

膵がんほどたちが悪くないことが多いものの、5年相対生存率は25%前後であり、簡単ながんというわけではありません。また胆道は、肝臓から膵臓を経て十二指腸に至る縦に長い臓器で、がんの発生部位によって肝切除が必要となる場合や膵切除が必要となる場合があり、大きく手術術式が異なることが特徴的です。

診断:ERCP等の精密検査で確定診断し、大まかな切除術式 (肝臓を切除するか、膵臓を切除するか)を決定しています。胆管がんでも高画質のCTは重要で、遠隔転移や血管浸潤の有無 (血管浸潤がある場合その場所)を元に切除可能かどうか判断するとともに、術式の詳細を検討します。また必要に応じてMRIやPET検査を行うこともあります。

術前:リンパ節転移が明らかな場合などを除き、術前に抗がん剤治療は行っていません。肝門部領域胆管がんでは、残す予定の肝臓が小さく、手術前に残肝を肥大させるカテーテル処置が必要になることがあります。

手術 (診断からの待期期間4週間前後) (表1):大まかには、上の方の胆道がん (肝門部領域胆管がん)の場合、大きな肝切除+胆管切除を行い、下の方の胆道がん (遠位胆管がんと十二指腸乳頭部がん)の場合、膵頭十二指腸切除を行います。その他、頻度は低いですが、進展範囲が限定されていれば、胆管切除のみで済む場合もあります。逆に、広く浅く進展している場合、肝膵同時切除を行うこともあります。

術後:病変の進行度とご本人の体力に応じて術後補助化学療法を行うかどうか検討します。補助化学療法を行う場合は3週毎、補助化学療法を行わない場合や補助化学療法終了後は3ヵ月毎の通院頻度となります。

<胆道がん②:胆嚢がん>

診断:胆嚢の中を直接調べる手法は現在でも発達しておらず、検査でがん細胞を検出することは未だに困難です。こうした背景からエコーやCTなどの画像検査から病変の状況を「がんの可能性自体が低い」、「がんと思われるが小さい」、「明らかにがんと思われ大きい」などに分類し、治療方針を検討しています。

術前:原則として術前に抗がん剤治療は行っていません。大きく肝切除する予定の場合、残肝を肥大させるカテーテル処置を行うことがあります。

手術 (診断からの待期期間4週間前後) (表1):画像検査から推定されるがんの進展範囲に応じて手術を立案します。病変状況と同様に術式のバリエーションも非常に多く、ここで包括的に記載することはできませんが、「胆嚢摘出のみ」、「胆嚢摘出+肝切除」、「胆嚢摘出+胆管切除」、「胆嚢摘出+肝切除+胆管切除」など、ケースバイケースです。

術後:病変の進行度とご本人の体力に応じて術後補助化学療法を行うかどうか検討します。補助化学療法を行う場合は3週毎、補助化学療法を行わない場合や補助化学療法終了後は3ヵ月毎の通院頻度となります。

 

表1:肝胆膵領域の手術

術式 再建 手術時間
(麻酔込)
出血量 死亡リスク 入院期間
小さな肝切除 なし 4~6時間 300~700 mL 2%以下 2週間程度
大きな肝切除 なし 8時間~ 1000~1500 mL 2%前後 2週間程度
大きな肝切除
+胆管切除
あり 10時間~ 1000~2000 mL 2-5%程度 4週間~
膵頭十二指腸切除 あり 10時間~ 500~1000 mL 1%前後 4週間~
膵体尾部切除 なし 6~8時間 300~700 mL 1%以下 3週間程度
肝膵同時切除 あり 12時間~ 1500 mL~ 5-10% 4週間~

※表内の数字は目安であり、実際にはケースバイケースです